のぼる雨粒

春、雪解けの増水が落ち着くころに群れを作って湖から川を上る雨鱒。厳しい冬が終わって山肌の雪が割れ、それでもまだまだ寒い日々のなかで、ある朝とつぜん「あ、春かも」と思う日がある。そんなとき何がきっかけか、最初のいっぴきが合図でも出すのか、澄んだ水にゆらゆらと漂う魚影。

ドライフライにはまだ早い?と思ったらそんな事はなく、毎朝眺めているとライズも見ることができる。湖のイトウ調査に疲れ果てたイブニングでも、入れ替わり釣り人が入って散々フライもルアーもずらっと並べて見せたあとでも、この川の流れとぐわんぐわん底に潜りロッドを絞るアメマスは僕を癒やしてくれました。

「綺麗な魚だねぇ」幾多の素晴らしい魚を釣ってきたある人がしみじみ言った。

アメマスは他のマスと違い、どちらかと言えば地味なトラウトかもしれない。虹鱒のように派手なジャンプはしないし、ブラウンのような暴力的な引きもしない。フックを外して片手でぽちゃん、そうやって心なしか雑な扱いを受けている気がする。進んで食べられることも無いからか鮭のように資源としての認識は甘い。

だけど、それでも、絶対に北海道の鱒釣りにおいて必要不可欠なサカナである、と声を大にして言いたい。

パーフェクトと言えるこのプールで#14ほどのカディスにがぼんがぼんと何匹かの魚が繰り返しライズしていた。

フライフィッシング4日目の友人をこのプールに案内した時にはもうそんな状況で、ロケーションも相まって頭がぼーっとしてくる始末。落ち着くために汗ばむジャケット脱ぎ、河原に立ち、ライズを見てまたニンマリ。なんて素晴らしい日なんだと思った。

午前の部でキャスティングのコツを掴み始めた友人を見てこれならイケる、と確信を持ちフライを流すレーンを本命一本に絞るよう指示を出す。真剣にループを作るその姿を見てまたまたニンマリ。もう釣れなくてもいいや、と思ったその矢先。

水面が弾けてロッドが曲がった。5回、6回とジャンプする虹鱒。キレッキレの角度で伸びるラインの先には次のプールに向かう勢いのある瀬があり・・・ラストジャンプでフックオフ!

そんなことがあった後で、同じくらい僕らを興奮させ、楽しませてくれたのが冒頭のアメマスだった。これで十分、そう思わせてくれるファイト。満足そうな友人の顔も忘れられない一日となった。やっぱり雨鱒は優しい。

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