4月。最高気温が20℃を越え、青白い雪解け水が川に流れ込むせいで彷徨う釣り人が増えてくるシーズン。
あっちも駄目、こっちも駄目…支流の支流へ清らかな水を探してイタズラに時間が過ぎる。北海道の鱒釣りに期待に胸を踊らせフライトを過ごしてきた釣り人にとっては、いつまで経ってもウェーダーすら履けず、フライを結べないのは苦痛以外の何物でもないでしょう…。増水して荒れ狂う川を眺める度に萎む気持ちと溜息とともに車に乗り込みグーグルマップを睨みつける、あの時間の無力感は耐え難いものがあります。
過去の自分がそうだったように、そういう時は如何に開き直るかが重要で美味しいものを食べて寝て過ごすか、地元を良く知る友人(いれば…)、もしくはローカルのガイドに頼るしかありません。
ガソリン代、宿泊代、食費、雑費。
釣り場が見知った環境で無い場合、こういった費用がやけに気になるものです。それは”せっかく来たのだから”という半ば強迫観念のようなものから来る”もしかして、このままボウズ…?”という思い込みが倍増させているのかもしれません。
北海道で、フライフィッシングを始めて約10年。
以前は札幌に住みフィールドは近いと言えども数百キロ先。少ない休日を利用して数時間の運転の後、川に立つ頃には先行者がいることもしばしば。同じフィールドに毎週通ったとしても、歩ける区間はせいぜい数十キロ。移り変わる季節と度重なる増水、氾濫によるポイントの消滅。
隣の芝が青く見えるとは良く言ったものです。遠くに行けば夢のような魚が釣れるポイントがあると思うのは他の釣り人も同じのようで、気合を入れて泊まりで向かった川には札幌ナンバーの車が複数台。
釣りが上手くなる1番の近道は、大きい魚を釣ることではなく数を釣ることですが、こうなると悪循環で0か1のまさに夢のような釣りばかりして、上達が先送りになっても仕方ありません。
南富良野に移住して3年。
自宅の裏にはイトウの遡上する川があり、北海道が世界に誇る美しいネイティブトラウトである雨鱒が泳ぎます。どの河川も1.5時間以内のドライブでフライをキャスティングできる環境で、雪代が襲う4月!には『かなやま湖』という広大なスティルウォーターで刺激的なイトウ釣りが楽しめます。
4月から11月まで移動時間やポイント探しに走り回ることなく、ダブルハンド、シングルハンド、スイッチロッド、あれこれ持ち替えて休む暇なく釣りをすることで自分のフライフィッシングは変わりました。
ひとつは遠くのフィールドに行く気持ちが殆ど消失したこと。私が知りたいのは地元のフィールドで、遠く離れた土地についてではありません。自分が1番よく知っているように、遠く離れたフィールドで必要なのは、そこに住む釣りキチ仲間かローカルガイドです。
ふたつめは自由なフライフィッシングをしても良いんだ、ということ。
WFのフライラインとテーパーリーダーにドライフライが全てではなく、フライラインすら取っ払ったモノリグを組んでタイトラインニンフィングを愉しむのも良し、ウキもあり、ショットもあり。納得いくものであれば不細工なフライでOK。あれこれノットを覚えて失敗するならユニノットひとつでOK(これについては必ずしもではない、と言っておきます一応)。タックキャスト、どんどんやりましょう。綺麗なループ、なくても大丈夫。格式高いロッドもリールも不必要、好きなものを使いましょう。
みっつめは道具は手段である、ということ。
フライフィッシングで魚を釣りたいのは、自然観察が楽しいからです。フライフィッシングという手段が最も自然観察を伴う釣りの一種なので、私はフライロッドを手にしています。そこにあるゲーム性やある種の雰囲気に引かれているわけではないというと嘘になりますが、本質はそれに限りません。一般的には面倒くさい趣味のように見られている気がします。
若いフライマンが増えないのは面倒くさくて上達に時間がかかるせいでしょうか??日本を取り巻く河川環境や漁協組合についてなど理由は無数にありそうですが、結局は道具がすべてにおいて先行してしまいフライフィッシングの本来の愉しみが伝わっていないから、なのではないかと思ったりもします。
そんなわけで、自分はガイドという仕事を始めることにしました。
南富良野とその近郊のフィールドでフライフィッシング。北海道の野生の鱒釣りの素晴らしさをまずは日本の人たちに、それから世界にも広めたいと考えています。先輩フライマンも若いフライマンも、色々な釣り人と共有できれば幸せです。
①生態系への思いやりと敬意を持ち持続可能な活用で、地域に貢献すること。
②古くからこの土地で釣りを楽しんできた人たちを尊重すること。
③ゲストを安全にご案内すること。
北海道のフィッシングガイドという仕事は特殊なものです。
山岳ガイドの歴史は古いですが北海道のフライフィッシングガイドはほんの数十年前でしょうか。今でも現役の先輩ガイドの皆さんとそのまた大先輩の方々が積み上げたことで成り立ってきた職業だと畏敬の念を抱くほどです。
新参者ですが、どうぞ宜しくお願いします。
かなやま湖は解氷で毎日状況に変化があり、難しいのですが通うとそれなりに見えてくるものがあります。アメマス、イトウ、ワカサギ、ウグイ、そんなキーワードで頭が常にいっぱいな現状。確認したいことが山ほどあって思い通りに行くことも行かないことも、丁度交互にやってくるようで。