高さ約10m、ハルニレにあけられたクマゲラのねぐらを最初に見つけたのは、たしか12月頃。
クマゲラがねぐらに戻る夕暮れ時はモモンガのチェックで忙しくて後回しになっていたけど、ずっと気になっていた場所です。モモンガの分散が始まり発情期のお祭りを迎えて一段落付いた頃、ようやくクマゲラのチェックだけに集中することにしてPM4:20頃からねぐら前で張り込むことに。
3月上旬、クマゲラの子育てがこれからいよいよ始まるという時期ですが、営巣木に選ばれるのは樹皮が平滑で枝下高が十分にある木がほとんど。これはアオダイショウやイイズナ、テンなどの外敵が簡単には登ってこられないようにするためで、最下枝は常に巣口から間隔を空けた上にあり上空からの猛禽類の襲撃が判るようになっています。
今回見つけた巣がねぐらの可能性が高いのは、そういった傾向から外れているため。例外もあるので営巣するかもしれませんが…。
到着してみると遅かったようで、ねぐらには既に雌が入っていました。
静かにこちらを伺い、きょろきょろ。本当に居た!という喜びとやっと見つけた嬉しさから、良く見ようと思わず近づきすぎてしまい、警戒して出てきてしまいました。ゆっくりその場を離れて双眼鏡でねぐらに戻ることを確認。その日は居ることが分かっただけで十分満足して、数枚写真を撮ってすぐに帰りました。
それから数日後、クマゲラがねぐらに戻る時間が知りたかったので早目に向かいPM3:00に到着して愕然としました。
伐採されて無造作に置かれたトドマツの側には黄色い重機、すっかり景色が変わってしまった森の様子に慌てて近寄ると、幸いねぐらのハルニレは残っていましたが周囲の針葉樹が切り倒されて、別の木のように見えます。切られた針葉樹を見て回ると、たくさんの樹洞があり巣材のようなものも残っていました。
いたたまれない気持ちで1時間待っても2時間待ってもクマゲラはねぐらに戻ってくることは無く、暗くなった森を帰宅しました。
クマゲラに関しては有澤浩さんの『クマゲラの森から』という書籍にすべてが書いてあると言っても過言ではありません。たまたま友人に教えてもらい出会った本ですが、ねぐら探しの参考にもさせていただきました。恐らく日本で1番クマゲラについて研究されており、40年におよぶ地道な調査で分かったことが惜しげもなく書かれています。先生の研究フィールドは富良野の東京大学北海道演習林(立ち入り禁止です)で、自宅から車で30分の距離ということもあり、より身近なこととして読むことができました。自分のフィールドとは森は分断されているとはいえ植生が似通っており、本が書かれた30年近く前から変わらず命を繋いできたクマゲラを実際に近所の森で見つけたときは、自然の叡智に鳥肌が立つような感動がありました。
クマゲラは小さな鳥にも追われるほどおとなしく臆病な鳥です。巣穴を用心深く覗いては、何かに驚くように顔を引っ込める仕草や、どこか哀愁の漂う鳴き声。キロキロキロ・・・と鳴きながら波打つように飛ぶ姿はいつまでも眺めていたくなる魅力があります。
ねぐらの森の伐採があり一旦は挫けそうになりましたが、また探しに歩こうと思います。
森はあらゆる生物の生活の舞台です。決して林業を否定するわけではありませんが、大木のうろや樹洞などに依存している鳥獣がたくさん居ること、それを考慮した上で慎重な伐採をして欲しいと願います。
クマゲラは枯れ木や倒木に棲むアリを主な餌としています。厳冬期には次々と雪で埋もれて減っていく餌場、2月になると大方食べ尽くしてしまい、最後の手段として硬い立木を猛烈に叩き、わずかな餌を求めて飢えを凌ぐようです。
自然界での越冬はヒトには想像できないほど過酷なのでしょう。真冬に出会ったクマゲラは近づいても気にせず一心不乱に樹皮を剥がしています。そうやって必死に生き延びて、春を迎えるクマゲラの力強いドラミングが響く森が、いつまでも変わらずあればいいなと思うのです。